新型コロナワクチン開発のためのT細胞エピトープの予測には限界がある可能性との指摘。T細胞による細胞性免疫を引き出すため、エピトープ予測が活発に行われている。30年前にラメンシー氏(H G Rammensee)らがHLAクラスIによって提示されるT細胞抗原の結合モチーフを初めて同定して以来、エピトープ予測アルゴリズムによってエピトープの同定は進歩してきて、感染症やがんで応用されたが、それでも限界がある可能性もある。
1990年代に初めて抗原提示されるエピトープが明らかになった頃は9つのアミノ酸がつながるエピトープが特徴とされたが、もっと長いもの、短いものがあると現在は明らかになっている。エピトープの長さのばらつきが大きく、アルゴリズムで予測するのが困難。長さが多様で、同じエピトープでも、その周辺も含めると特異性がいろいろと変わってしまう。最適なワクチン開発のエピトープ予測をより難しくしている。
一方で、エピトープに結合するHLAクラスIの方はスーパータイプと呼ばれるように、さまざまなエピトープに結合することもある。これでアルゴリズム設計の学習を混乱させる可能性もある。新型コロナウイルスのワクチン開発では時間も限られ、アルゴリズム予測をより困難にする理由になる。タンパク質の処理による影響を反映するのも課題。ウイルス自体の変化の対応も必要になってくる。
2020年6月スペイン、米国見解
Silva-Arrieta S, Goulder PJR, Brander C (2020) In silico veritas? Potential limitations for SARS-CoV-2 vaccine development based on T-cell epitope prediction. PLoS Pathog 16(6): e1008607. https://doi.org/10.1371/journal.ppat.1008607
Falk K, Rötzschke O, Stevanović S, Jung G, Rammensee HG. Allele-specific motifs revealed by sequencing of self-peptides eluted from MHC molecules. Nature. 1991;351(6324):290-296. doi:10.1038/351290a0