末期心疾患の成人患者に遺伝子組み換えのブタ心臓を移植する世界初の手術が成功し、従来の移植が不可能と判断された患者が生存するための唯一の選択肢が誕生した。米国、メリーランド大学医学部の研究グループが、同大学の公式ウェブサイトで1月に発表した。
世界初のブタの心臓移植
連邦政府が運営するorgandonor.govによると、現在約11万人のアメリカ人が臓器移植を待っており、毎年6,000人以上の患者が移植を受ける前に亡くなっているという。異種移植は何千人もの命を救う可能性があるが、危険な免疫反応を引き起こす可能性など、独自のリスクを伴う。このような反応は、臓器に対する即時拒絶反応を引き起こし、患者にとって致命的な結果をもたらす可能性がある。異種移植は1980年代に試みられたが、カリフォルニア州のロマリンダ大学で起きたステファニー・フェイ・ボードレア(通称ベイビー・フェイ)の有名なケースを最後に、ほとんど見送られてきた。
この度、メリーランド大学医学部(UMSOM)ならびにメリーランド大学医療センター(UMMC)の研究チームは、従来の心臓移植には不適格と判断された57才の末期の心臓病患者に遺伝子組み換えのブタの心臓の移植手術を世界で初めて行った。
患者は、6週間以上前に生命を脅かす不整脈で入院し、体外式膜酸素供給法(ECMO)と呼ばれる心肺バイパス装置に接続され生命を維持していた。この患者は、移植リストに載る資格がないことに加え、不整脈のため人工心臓のポンプも不適格と判断された。生命の危機に瀕した患者にとって、実験的な医療製品(この場合は遺伝子組み換えブタの心臓)が命を救うための唯一の選択肢であったため、拡大アクセス(同情的使用)条項により米国食品医薬品局(FDA)からこの手術への緊急認可が与えられた。
患者に新しい選択肢を提供
患者は、移植を受けることに同意する前に、この手術のリスク、そしてこの手術が未知のリスクと利益を伴う実験的なものであることを十分に説明された。移植手術当日の朝、外科チームは、遺伝子改変ブタの心臓を取り出し、XVIVO Heart Boxという灌流装置(手術まで心臓を保存するための機械)に入れた。また、従来の抗拒絶反応薬(免疫系を抑制し、体が外来臓器を拒絶するのを防ぐための薬)と共にKiniksa Pharmaceuticals(キニクサ製薬)の実験的化合物である新薬も使用した。手術は成功し、遺伝子改変された動物の心臓が人間の心臓と同じように機能し、すぐに拒絶反応を起こさないことが初めて実証された。
この画期的な手術の成功により、臓器不足の危機を解決することに一歩近づいたと説明している。研究チームは、この措置が臓器移植を必要とする患者さんのための標準的な治療法になる日が来ることを望んでおり。今後もより多くの患者に命綱を提供できるような、患者ケアのための医学的発見を進め、適応させていくとしている。