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男性不妊の新たな要因、英国の研究グループが報告

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 重度の男性不妊症の原因となる新たな遺伝的メカニズムが特定された。両親のDNAが複製されるプロセスで発生する突然変異が、後年、男性に不妊症をもたらす可能性があることが発見された。男性不妊症の根本的な原因を解明するこの画期的な成果は、今後、患者によりよい治療法を提供できる可能性を示唆している。
 英国、ニューカッスル大学の研究グループが、モバイルヘルス専門誌『Nature Communications』で1月に発表した。

デノボ変異が原因になるケース

 男性不妊症は、不妊症の約半数を占め、男性人口の7%が罹患していると言われている。男性不妊症に遺伝的原因があることは明らかだが、診断に関連する遺伝子は明らかに不足しており、全症例の少なくとも40%は特発性不妊症と分類されている。一方、神経発達障害など、生殖致死を伴う他の疾患におけるこれまでの研究で、その病因にデノボ突然変異(DNM)が重要な役割を果たすことが示されている。
 
 1999年に無精子症の男性でY染色体遺伝子USP9YのDNMが報告された。しかし、これまで、男性不妊症におけるDNMの役割に関する系統的な解析は行われていなかった。最近、13人の不妊症男性とその両親を対象とした試験的なエクソームシーケンス研究が発表された。

そこで、研究グループは、このほど、体力の低下と関連する散発性障害に顕著な役割を果たすことが知られているDNMが重症男性不妊症に重要な役割を果たし、未解明の部分が多い疾患の遺伝的原因の一部を説明するとの仮説を立て、仮説の検証のために185人の不妊症の男性とその両親のコホートにおいて、3人を組とするエクソームシーケンスを実施、被験者のDNAの収集および研究を行った結果、男性の生殖能力に悪影響を及ぼすと思われる145の希少なタンパク質変化をもたらす遺伝子変異を確認した。

男性不妊症の原因を究明する画期的なパラダイム

 系統的な解析の結果、145の希少な(マイナーアレル頻度、Minor allele frequency、MAF<0.1%)タンパク質に変化を与えるデノボ変異のうち29個が男性不妊の表現型の原因となる可能性があると分類された。

 不妊症男性では、対照群と比較して、機能喪失型DNMが機能喪失型不耐性遺伝子に有意に濃縮されていることが観察された(p値 = 1.00 × 10-5)。さらに、予測される良性のデノボ変異とは対照的に、ミスセンス不耐性遺伝子に影響を与える予測される病原性のデノボミスセンス変異の有意な増加も検出された(p値 = 5.01 × 10-4)。

 研究グループが同定した遺伝子の一つRBM5は、雄性生殖細胞のプレmRNAスプライシングに必須の制御因子であり、マウスの雄性不妊に関与していることが知られている。追跡調査では、2506人の不妊患者コホートでこの遺伝子に影響を及ぼす6個の稀な病原性ミスセンス変異が観察されたが、5784人の受胎可能男性コホートではそのような変異は見られなかった(p値=0.03)。この結果は、重度の男性不妊症におけるDNMの役割を証明するものであり、生殖能力に影響を与える新たな候補遺伝子を指し示している。

重要なことは、これらの変異はほとんどが顕性(優性)遺伝の不妊症の原因となり、1つの変異した遺伝子だけが必要とされることである。その結果、これらの突然変異による不妊症は、(生殖補助医療技術を用いた場合)男性の子供に50%の確率で遺伝し、特に息子に不妊症が生じる可能性ということだ。

 これは、男性不妊症の原因に対する人類の理解における真のパラダイムシフトである。ほとんどの遺伝学的研究は、潜性(劣性)遺伝による不妊の原因について研究してる。つまり、両親ともにある遺伝子に変異があり、息子が両方の変異したコピーを受け取ることで不妊が起こり、その結果生殖能力に問題が生じるというものだ。しかし、今回の研究により、親の生殖時にDNAが複製される際に生じる突然変異が、その息子の不妊に大きく関わっていることが判明した。この新しい知見により、将来、不妊症のカップルが利用できる原因や最善の治療方法について、より多くの答えが得られることが期待される。

男性の健康

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